1. 開発背景

地球に起こった人工的な変化

環境破壊、地球温暖化、脱炭素社会の実現、カーボンニュートラル。2023年、私たちの身の回りにはこうした言葉が日常的に見られるようになった。科学者や政治家も声高に叫ぶ。このままでは地球は住みにくい星になると。

一方、違う見方も存在する。地球は長い歴史の中で、氷河期と温暖期を繰り返している。いまから数万年前、地球は氷河期にあった。その最後の氷河期が終わったのが約1万年前、そこから始まる温暖期と人類の発展は、実はリンクしている。21世紀のこの地球温暖化も、惑星単位で考えたとき、その一過程に過ぎない。そう主張する科学者や、そう捉える消費者もいる。

人類は、農耕を開始してまだ1万年ほど。文字を発明してからはまだ7000年も経っていない。産業革命の始めとなる蒸気機関を生み出してから250年、飛行技術を手に入れて120年しか経っていない。インターネットに至ってはまだ50年ほどだ。そんな人類にとって万単位の年月における惑星の変化は、あまりにも大きく、寿命が100年しかない生物にとって、それを考慮することは難しい。

では、ここ100年の間に起こった事実に目を向けるとどうだろうか。

世界の人口は、1920年代の18億人から80億人へと約4倍に増大した。平均気温はこの100年で0.74℃上昇している(気象庁)。北半球にかぎってみれば、1℃以上の上昇だ。二酸化炭素濃度は産業革命前までは280ppmで安定していたが、この100年で上昇し現在は400ppmを超えている。二酸化炭素の排出量は、5億トンから350億トンへと70倍拡大している(100年前のデータは諸説ある推計値)。

事実というのは、人類が計測・予測できるデータのことである。現在の科学技術の礎を活用して示すことができる数値である。

このグラフは、過去80万年の現代科学に基づく推計値となる。80万年前から現在までの平均気温と二酸化炭素濃度の推移である。上記に述べたこの100年で起こった事実、急激な科学的発展を遂げた人類がこの惑星に与えた影響は、確かに「人工的」な変化をもたらしたと言える。

未知なる科学技術に基づく反証や、惑星単位で考えたときそれは実は軽微な変化という主張はある。それが正しい可能性もある。しかし、それは現代の私たちにはまだ分からない。

そして、もう1つの事実に目を向けてみよう。

この100年の変化に基づき、世界中の国、世界中の企業が「環境破壊、地球温暖化、脱炭素社会の実現、カーボンニュートラル」に向き合い始めた。目指すべきは、二酸化炭素排出量をネットゼロにする世界。人類のあらゆる科学的な営みを継続したとしても、二酸化炭素の排出量が増えない世界だ。人工的に排出はするが、吸収し利活用もする。全世界の経済規模は現在1京円(10000兆円)を超える。その経済が、この方向に向かい始めたのだ。

また、80億人の人類も同じ方向を向き始めている。スマホ人口は優に50億人を超えている。50億人が日々、インターネット、ニュースアプリ、ソーシャルメディアを通じて、「環境破壊、地球温暖化、脱炭素社会の実現、カーボンニュートラル」について考え始めた。目にし始めた。興味の大小はあるが、子どもたちの未来のためにはどうにかしなければならないのだろう、と漠然と思い始めている。

経済活動を推進する企業と消費者の大きな変化。これもいま起こっている事実となる。

これからの100年を今の2023年の人類が考えることが、さらにその次の100年に生きる未来の人類に活きてくる。だからいま、動き出さねばならないのだ。

8割減らすために、毎日見せる

地球の未来に向けて、大きな目標設定が世界で成された。二酸化炭素排出量を2050年までに80%減少させる目標だ。2021年に開催されたCOP26では、これは「人類共通の課題」と設定された。

科学技術と経済の発展に突き進んできたこの100年、何十倍にも増やしてきた、増やすことで世界が成り立っていた二酸化炭素の排出量を、ここから27年で80%減らす。増やさないことには成り立たない世界を、減らしながら成り立たせ、そして発展へと推し進めていく。

とてつもなく大きな目標と言える。27年で80%減らすためには、毎年6%減少させる必要がある。経済成長させながら。日本は人口は減少しているが、2050年にかけて世界の人口は100億人にまでまだ増えていく。20億人の人間が増えていく過程において、毎年6%の減少を経済を発展させながら実現していく必要がある。

乱暴な例え話だが、家庭で考えてみよう。これから子供が生まれ家族が増える。そんななか給料を上げながら、支出は毎年減らしていく。そんな目標のようにも聞こえる。日本経済はこの30年残念ながら停滞し、人口も頭打ちで減り始めた。その30年の間にも二酸化炭素排出量は増え続けている。

とてつもなく高い目標だ

そして、私たちはこの状況をとてつもなく面白いと感じた

面白いという言葉は不謹慎なイメージを連想するのであれば、違う言葉で表現するなら、この状況にとてつもなく大きなやりがいを感じる。

2050年までに人類が火星に上陸するよりも困難かもしれない。そんな高い目標に向かって、1京円の経済が、音を立てずに大きく動き出しているのだ。これほど面白いタイミングは過去にない。

そして、この状況に関わるサービスを企画するにあたり、最後の1つの大きな事実に私たちは気がついた。

「ちょっと待てよ。二酸化炭素を8割減らさないといけない。毎年6%?じゃあ、いったい自分は今どれだけ出しているんだ?去年からどれだけ減らせるんだ?」

そう、私たちは今現在、誰も知らないのだ。

自分がどれだけ二酸化炭素を出してしまったのか。

自分がどれだけ二酸化炭素の排出を減らすことができるのか。

50kgの人が体重の6%、つまり3kgのダイエットをしようとするとき、その人は自分の体重を知らなければ、計ることもできない。そんな状態が、今現在なのだ。目標を達成するには、その数値を毎日見ることから始まる。見なければ始まらない。

その根源的でシンプルな事実を知ったとき、「capture.x」は生まれた。

脱炭素社会の実現を自分ごとに変える。

つまり、自分ごとに変えるとは、シンプルに、すべての人に、自分がどれだけ二酸化炭素を出しているのか(減らすことができているのか)を、「毎日見せ続けること」だと。

これがcapture.xの始まりである。

最終更新